花名のマリーゴールドは、「聖母マリアの黄金の花」という意味。これは年に何度もある聖母マリアの祭日にいつもマリーゴールドが咲いていたことに由来する。

マリーゴールドは、キク科コウオウソン属のうち、草花として栽培される品種をさす。学名は「タゲテス(tagetes)」。このタゲテスという名は、紀元前8世紀から紀元前1世紀頃にかけてイタリア半島の中部にあった国「エトルリア」に占術を伝授した神話の人物「ターゲス」にちなむもの。植物学者リンネが、この名を花に捧げた。

マリーゴールドがもつ花言葉のひとつに「予言」というものがあるが、この言葉はターゲスに因むものかと思われる。ただし、マリーゴールドの花言葉に密接に絡んでくる太陽神アポローンも「神託を授ける予言の神」としての側面を持っているため、こちらからの由来という説もある。

太陽神アポローンの「様々な顔」

アポローンは太陽神である他にも、様々な事物を司っている。詩や音楽などの芸術の神、病を払う医術の神、予言の神、弓術の神でもあり、凶暴な大蛇を退治するような、勇猛な神でもある。

マリーゴールドには「信頼」「勇者」「悪を挫く」という花言葉がある。また黄色の花には「健康」という花言葉もあるが、これらはまさにアポローンの持つ様々な顔に由来するものであろう。

アポローンと水の妖精クリュティエー

アポローンは多情な神でもあった。そのことがもとになった神話も、マリーゴールドに結び付いたもの。愛の女神・アフロディーテは炎と鍛冶の神・ヘーパイストスの妻だった。しかし、荒ぶる神・アーレスと道ならぬ関係に陥ってしまう。ふたりの不義を知ったアポローンは、ヘーパイストスにその事を言いつけてしまう。

アフロディーテはアポローンの仕打ちを許すことができず、彼の寵愛を一身に受けていた水の妖精クリュティエーの「嫉妬心」を利用して復讐する策を講じた。

アフロディーテは故意に、ペルシャ王オルカモスの娘・王女レウコトエをアポローンに近づけた。アポローンはたちまちレウコトエの美しさに魅かれ、二人は恋仲になった。見向きもされなくなってクリュティエーは、そのことをオルカモスに言いつける。

すると激怒した王は、レウコトエを生き埋めにし、殺してしまったのだ。それを悲しんだアポローンは、レウコトエのなきがらを乳香の木に変えた。

しかし、悲劇はそれだけに収まらず。クリュティエーは、自分の嫉妬心による行動でレウコトエを亡き者にしてしまった自分を恥じた。そればかりでなく、アポローンの心も取り戻すことが出来なかったのだ。

絶望したクリュティエーは、9日間アポローンを見つめ続け、そのまま身体は一輪のマリーゴールドになってしまった。マリーゴールドには「嫉妬」「悲しみ」と言った花言葉がある、これらはクリュティエーの姿に通じるものと思われる。

アポローンに恋い焦がれた乙女カルタ

多くの神々や妖精に愛されたアポローンだが、人間も例外ではなかった。ある時、カルタという乙女も、アポローンに恋をした。

カルタにとっては、毎日太陽=アポローンの姿を見ることが何よりの生きがいだった。しかしその思いは激しく、自らの情熱の炎に蝕まれて、彼女は徐々にやせ細って行った。そしてとうとう、彼女の身体はひとひらの魂となって消え失せてしまった。その魂は、一輪のマリーゴールドとなったのだ。

自らの身体を蝕んでしまうほどの愛情。マリーゴールドには「濃厚な愛情」という花言葉があるが、まさに愛情の深さで滅んでいったカルタを思わせる。

そしてオレンジ色の花が持つ花言葉は「真心」。咲く花にこの言葉を重ねてみると、花の形が美しい炎に見えてくるようだ。

アポローンを慕う美少年クリムノン

アポローンを恋い慕ったのは女性だけではない。美少年クリムノンもそのひとりだった。クリムノンは毎日空を仰ぎ、太陽=アポローンを目にすることで幸せを感じていた。やがてアポローンもクリムノンの恋心を知り、彼に愛情を抱くようになった。

ところが雲の神がそのことに嫉妬し、アポローンを雲で覆い隠してしまった。それは8日間続き、クリムノンは嘆き悲しんで倒れ、息絶えてしまう。そのなきがらを、アポローンはマリーゴールドの花に変えたのだ。

マリーゴールドの持つ「絶望」「悲嘆」という、その花に似つかわしくない重たい花言葉に通じる話だ。

(キンセンカの項を参照)